「ターメリック、コリアンダー、フェネグリーク、ブラックペパー、パプリカ、ジンジャー、フェンネル、クミン、陳皮、カルダモン、ディル、ナツメグ、その他香辛料」
カズヨはスーパーのスパイスコーナーで見つけたカレーパウダーを手に取り、食品表示を確認しながら、まるで呪文のようにスパイスの名前を唱えていた。
「シナモン、入ってないんだ」
「もしかして ” その他香辛料 ” にまとめられちゃってるのかな」
パッケージには ” 約30種類のスパイスが ” と書かれてある。
表記されているスパイスは12種類。
残りあと18種類くらいは入っているのか。
このメーカーのカレー粉は初めて見つけたし、買ってみようかなと思ってカゴに入れてレジに向かった。

カズヨは家に帰ってからさっそくスパイスの缶を手に取りながら、どんな味がするんだろうと想像していた。
スマホのロック画面を解除する時に自分の顔が写って表情が緩んでいる自分の顔を見て「たのしいなぁ」と小さな幸せを感じていた。
「変化は人生のスパイスである」
スマホの画面に出てきたテキスト。
スパイスについて調べていたら出てきた。
画面が白から黒に切り替わり、また白に戻る一瞬。
ディスプレイに反射して映る自分の目と視線が合う。
” 変化 ” の文字が頭の中でリフレインする。
毎朝決まった時間に起きてルーティンをこなし、いつもの仕事をいつものように淡々とこなして、スマホのアプリでドラマの配信を見ながら寝落ちして、1日が終わる。
まるで機械の部品の一部みたいだな。
「さいごに変化したのはいつだっけ」
そう思って、カズヨは冷蔵庫の中身を思い出しながら、キッチンへ向かった。

結局、昨日作っていた残り物の ” 白菜とセロリのスープ ” にカレーパウダーを加えて食べた。
「辛すぎても困るから、ティースプーン三分の一くらいで様子を見よう」
「醤油、う〜ん。ソース? ウスターソースかな?」
顆粒のカツオ出汁と軽く塩だけで味付けしていた野菜スープだったので、味付けは控えめだった。
やはりカレー味ならしっかりめのほうが慣れているかもしれないな、と思いながら白いご飯を口に運んだ。

それほど辛いわけでもなかったので、辛くて食べられなかったらどうしようかと言う不安はなくてほっとしていた。
多少のスパイスの苦味やクセが感じられたけれど、あっさりして食べやすいほうだったと思う。
カレールゥにある牛脂や豚脂、植物油はカレー粉には入っていないので、こってりとしたオイリーなコクがなかったのが良かったのかもしれない。
あるいは、ガーリックのパンチが効いた風味もほとんどなかったからなのかもしれない。
「今度は醤油やソースも入れて、もう少し濃ゆい味付けにして食べてみよう」
食器をキッチンに下げて洗った。
カズヨの手足はほんのり温かくなっていた。
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